長くこのコラムにラグビーのことを書いてますが、レフリングについて書いたことはおそらくなかったと思います。まぁそれが今回のテーマであるレフリーがいかに軽視されているか(私も軽視してしまっていること)の証明でもあるのですが・・・。 それでもとにかくC級を取ってみようと思って勉強を始めました。勉強と言ってもルールブックを読むだけなのですが、このルールブックなるものがなかなか読みにくい代物です。おそらくはIRBの英語で書かれたルールブックがあって、それを和訳することからスタートするためどうしても意訳を避け、忠実にやろうとして硬い文章になる、もともとルールそのものが硬い文でもある・・・と言うのが大きな理由かと思います。少し英語の読める人で、ルールブックがわかりにくい場合は英語も併読することをお勧めします。英語の方がわかりやすい場合が随分あります。少々間違った笛を吹いても「ぼくはIRBルールで吹きました。」と、とぼけられます。(冗談ですよ、冗談) 特に昔は解説も絵図もビデオも何もないですから文章だけでルールの解釈をすることにはかなり無理な面があります。そういうところを補うために協会でも受験者に対し、実技指導、解釈講義などをしてくれるのですが、自ずから情報量には限界があります。 例えば私の講習会場ではこんな一幕がありました。講師は当時レフリーとして著名な方でした。その方が「インゴールに入ったらスローフォワードはない。」と仰有ったのです。で、私が「もし明らかにスローフォワードしてしまっても罰則がないのですか?」と質問したら、「インゴールへ入ったらトライしたらいいんだからスローフォワードなんか起こり得ない。」と説明されました。そこで私は息を呑みました。すぐに頭に浮かんだのはノーサイド寸前で5点リードされてて、トライしても逆転しない、うちのキッカーの力からしてゴールポスト下へ回り込んでトライしてあげないと逆転できない (当時はトライ4点) こんなケースではスローフォワードは十分あり得るだろうと思ったからです。でもそれを口に出すのは控えました。実際は当時のルールにはその場合の記載がなく、現行ルールにはそういう場合は5mスクラムという記載があります。このようにルールそのものが細かい解釈を加えて年々成長していきます。 |
|
麻生 彰久レフリー |
|
大槻 卓レフリー |
|
久保 修平レフリー |
|
他競技はどうかよく知りませんが、少なくともラグビーは毎年のルール改正を講習会でおさえておかねば笛が吹けないほどよくルール変更があります。でもこのルール改正はネガティブに捉えないでください。むしろ各チームがルールを研究した結果、勝つために面白くないプレーがたくさん出てくることを防ぐ役割が強いのです。最近で言えば日本中のチームが判で押したように「ゴール前はラインアウトモール」という傾向が強く出た時期がありましたが、これもルール改正でかなり緩和されてきています。子どもたちは自分たちの遊びがつまらなくなったらどんどんルールを変えてもっと面白くしようとしますが、それと同じことがラグビー界では世界レベルで起きていると思って下さい。(それにしてもなぜ野球やサッカーはそうならないのか?まぁコンタクトプレーがほとんど1対1で起こるため非常に見やすいってことなのかな?) ルールブックを読んでいて私が理解したのは、「このルール体系には根底にラグビー精神が流れている。それを知って吹けば対処できるはずだ。」ということです。実際に試験に受かるためには、キックオフのボールが一度はタッチラインの上を越え、風で押し戻されてフィールドに落ちた場合はタッチ?とか、インゴールに転がったボールを身体は完全にタッチの外からダイブしてインゴールで一瞬押さえた場合はトライ?とか、ややこしいケースを憶えねばダメですが、一冊読んでいく内に、ルールというのはこういう考え方の元にできてるんだな、サッカーのオフサイドとラグビーのオフサイドの考え方の違いはここなんだな、というのがぼんやりわかってきます。こんなこと言ってても実際に細かいルールを知らなければレフリーはできませんが、それでも私の言いたいことを言うためにはここんところが重要なので先に布石を打っておきます。
|
|
戸田 京介レフリー |
|
原田 隆司レフリー |
|
平林 泰三レフリー |
|
レフリーを目指した時は、もっと甘く考えていましたが、実際やってみると私にはレフリーを続けるモチベーションが保てませんでした。微妙な判定がなければほっとするが、微妙なプレーがあったら、どちらかのサイドから必ず叱声が聞こえ、時には両方から批判されることさえあり得ます。それも自分にスキルがないため、反則を見逃してしまったとか、時には全く逆のチームをペナライズしてしまったとか、については叱声に甘んじるしかありませんが、明らかにそうじゃないケースもある訳です。スクールレベルならまだしも、15人制で行う大人の試合では見えないことがいくらでもあります。また、大人の試合ではスクラムの反則がたくさん吹かれますが、こちらの1番と相手の3番のどちらがスクラムを落としているのか?こんな判断、プロップをやっていた私でもどっちに責任があるのかわかりません。レフリーは本当にわかって吹いているのか?と疑問に思う場面がたくさんあります。 リスペクト
(respect)
という言葉は最近ラグビーでもよく使われるようになりました。試合中は必死になって相手をたたきつぶすつもりで戦う、でも歯ごたえのある敵であればあるほど、終わった後にたとえ負けても一定の爽快感と、相手が立派だった、良い敵だった、彼らとのゲームはスリリングだった、またぜひやりたい、と思う気持ちが湧いてくる・・・・こんな感じでしょうか。それをリスペクトとするならば、レフリーに対するリスペクトは? |
ルールブック表紙 |
私のつまらない経験で例を出すのは恐縮ですが、ノット10mを拡大解釈(悪用?)してペナルティが起きたらすぐにタップキックして正当に退きつつある敵にわざとぶつかってもう一回ノット10をもらおうとするプレーが横行したことがあります。すぐに2回目はレフリーが試合を止めてそんなことは繰り返させないようになりましたが、これも協会から指示があるまではルールに書かれている通り、と頑なにノット10をとり続けるレフリングもあった訳です。それは上述のようにルールの基本精神を忘れたレフリングだと思うのです。だから私はそんなちょろいプレーをしてるヤツを断固逆にペナライズしました。 |